こども嫌いでしたが、こどもに関わる会社始めました。

中国で子供向けエンターテイメントコンテンツを提供する会社をやっています。

あの時、ステージに立っていた君へ

 昨日道を歩いていたとき、無意識に何かのメロディーを口ずさんでいました。「あれ?この曲何だっけ?」目的地に着いても思い出せず何となく一日ずっとどこかに引っかかっていて、夜、急に思い出しました。

 

 私は13年くらい前、東京の小さいライブハウスで働いていたことがありました。働いていたとは言っても直接のスタッフではなく、自分の会社が仕方なしに受けた仕事の為に私は月に2,3度顔を出している程度でしたが。バンドブームもとっくの昔に終わり、ジャンルと言うたくさんの教科書が出来てアーティストにも面白く話が出来ることが求められ始めた時代でした。殆どのバンドはその教科書通りの音楽を教科書通りのスタイルでこなしお笑い芸人のようなMCで客を笑わせていて、私はすっかり興味を無くし淡々と仕事としてそこにいました。

 

 そんなある日、突然音楽が始まったので驚いてステージを見ると、地味な服装をした4人が顔も上げず一心不乱に演奏していて、あっと言う間に1曲目が終わると聞き取れないくらいの声で一言バンド名だけ名乗り、また曲が始まりました。いつの間にか私は夢中でそれを見ていて、あっという間に彼らの出番は終わっていました。前のバンドの楽しいMCで和気藹々と笑い合っていた若い客は皆戸惑った様子で突っ立っていましたが、その後のバンドが登場し楽しい挨拶をしたので、安心したようにまたいつもの雰囲気に戻りました。スタッフに人懐っこく話しかけたり、バンド同士仲良くするのが殆どの中、彼らはそれもなく出番が終わるとすぐに帰ったようでした。

 

 それ以来私はなぜかそのバンドがとても気になり、彼らの出番がある日に合わせてライブハウスに来るようになりました。彼らはいつも何の挨拶もせずバンド名と曲名を言うだけだし、演奏が終わればさっさと退場してしまうので、客は毎回戸惑っているようでした。でも私はどんどん引きつけられて、仕事でなくても彼らの演奏を見に行ったりしていました。彼らの飾らずイメージだけ投げかける日本語の歌詞や、印象的な展開や、何より必死に演奏している姿がとても好きでした。何故こんなに引き付けられるのか自分でもわかってませんでしたが、何かを証明したいのに自分が何に向いているのかも分からずもがいていたあの時の私と、彼らの楽しいというより何かに切羽詰ってやらざるを得ないという様な感じがちょうど共鳴していたのかも知れません。それでも何故か直接話しかける気がせず、お互い特に話さないまま時間が経ちました。その後、私の会社はそのライブハウスから手を引いたことでそこでの仕事は終了し、自分も忙しくなり全く足を運ばなくなりましたが、その後も彼らのCDはよく聞いていたし、音楽の仕事に携わると彼らの姿を思い出しました。

 

 昨日口ずさんだのは、彼らの音楽でした。思い出して急いで探してみたら、彼のCDが出てきました。12年前急に中国へ行く事になり、PCに取り込む時間もなく山のようなCDの中から悩み抜いて最小限選んで持って来た中に彼らのCDが有りました。もしかしてと思い、ネットで彼らの名を探してみたけれど見つかりませんでした。

 

あの時、ステージに立っていた君へ
もう音楽を辞めてしまって、社会人として、若い時バンドやってたんだなんて思い出話になっているかも知れない。もうあなたの周りの人は誰も、あなたが昔音楽をやっていたことを知らないかもしれない。もしかしたら、芽が出ないまままだ続けているのかも知れない。もしかしたらどこかで諦めて趣味として続けているかも知れない。いい思い出になっているのか、ほろ苦い思い出になっているのか、忘れたい思い出にになっているのか。そのどれだとしても、今私はとてもあなた達に伝えたい。
あの時のあなたの音楽は、確実に私に何かを与えてくれたし今も私の中に残っていて、こうして海を超えてもまだ時々口ずさんだり、あなた達のステージを思い出したりします。今の私は、そこまで苦しまずに自分を見ることが出来るようになった気がします。君はどうですか?君に取ってほろ苦くも自慢できる過去であって欲しいと思っています。

音楽だけで誰かの記憶に形を残すって、とてもすごい事だと思う。

本当にありがとう。