こども嫌いでしたが、こどもに関わる会社始めました。

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交渉という技術。その1:あなたは何故ぼられるのか?

今まさに72時間に日本の交渉力が試されています。しかし日本での日常生活で“交渉”はかなり縁遠いものではないかと思います。私は日本を出てから、今まで“交渉”して来たつもりだったのは、実は“相談”や“確認”だったということを思い知りました。

 

あなたは中国の観光客相手の店でスーツケースを買おうとしています。店側の第一声が「500元」だった時、あなたはどう返しますか?

日本人を案内してきた経験だと450元、400元位が多かった気がします。中には「交渉はまず半額からだと聞いた。」と言う人もいて、彼は250元と返し、やり取りが合って結局300元に決まり、店の人はニコニコ愛想よく、買った方も「200元も値引いた!」と機嫌よく楽しく買い物が終わりました。でもその後同じ商品を中国人が70元で買っていきました。あなたならこれを知ってどう思いますか?「230元騙された」と思いますか?

 

それではその店vs客の熾烈な戦いを、解説付きで見てみることにしましょう。

1、客は通る客をじろじろ見ている。
→服装、持ち物、話し方を観察し相手の経済力、観光客か地元の客か、冷やかしか目的があるかなどを判断。客も同じく店の雰囲気などからその価格帯や売り方などを観察し予想している。
2、客は目ぼしい商品を置く店を見つけたが、とりあえずは通り過ぎ離れた所からその店と別の客とのやり取りを見ている。

→店が客に対してどういう態度で交渉するのか、その店の値段はどのくらいかという情報収集をしている。

3、客はやっとその店に近づき、何気なくいくつかの商品を見渡して関係ないカバンの値段をいくつか聞いた後、やっとお目当てのスーツケースの値段を聞く。店の第一声は400元。

→客は他の商品の値段からその店の対応を見て、対策の為の材料にする。店は、客の服装が綺麗だったのと丁寧な言葉遣いから地元の客ではないと判断し、外国人よりは抑えた吹っ掛け値段で様子を見る。

4、客が笑って、「分かった。」とだけ言って立ち去ろうとしたら、店は「待て待て、いくらなら買うんだ?」と持ちかけた。

→客は「おれはこの商品の相場を知っているからぼったくるのは無理だ」というアピール、店は「お前がぼったくれない客だというのは分かった、ちゃんと勝負しよう」という意味。

5、客は「ここは観光客相手なんだろう?他の店で買うよ」と更に離れる。

→別にこの店で買わなくてもいいんだという脅し。

6、店は「わかったよ。こちらもストレートも商売しよう。これは○○の良い材料を使っているし、この部分の作りも丁寧だ。そしてこんなに頑丈だから200元でどうか?」

→簡単にぼったくるのは諦めたので、具体的なセールスポイントをアピールし始めた。
7、客は「何が○○材料だ、そんなもの何処にでもあるしここの作りもこんなに雑だ。まだ騙す気ならもう行くわ。」

→実際は結構良いなと思っているが、値下げさせる為に気に入っていないことをアピールしている。

8、店「じゃあいくらなら買うんだよ?」、客「50元だろ、こんなの」

→店は客の言い値から作戦を考えようとしている。客の本心では100元までなら買えると思っているが、敢えて50元と言って相手の顔色を見てみる作戦。

9、店「そりゃ無理すぎる。原価にも全然足らない。嘘なら他の店で聞いてみな。」

→実際の原価は50元で、いいところ突かれたと思っている。

10、客「さっきあっちの店で聞いたらこのくらいだった。」

→聞いてないが、更に押してみて反応を見る。

11、店「じゃあしょうがないからそっちの店で買えばいい。うちは本当に無理。」

→原価50元だから他の店でも売らないと思い勝負に出ている。

12、客「俺もあそこまで戻るのは面倒だな、じゃあお前は幾らで売る気だよ?」

→店の態度から50元では無理と知り、相手の言い値で判断しようとしている。

13、店「じゃあもう本当に大サービスで150元、人に言うなよ。」

→人に言うなよ、で特別感と本当にギリギリだということをアピールしている。

14、客「それじゃ全然高すぎる、やっぱり諦めるわ。」

→相手の表情などからまだ余裕があると判断した。

15、店「わかった、わかった。じゃあお互い歩み寄ろう、間を取って100元はどうだ?」

→100元までならまだ許せる、これで勝負を決めようと思っている。

16、客「じゃ、やっぱり他の店で買うわ。高い。」店「じゃ、80元。もう本当に限界だ。」

→客も勝負に出ている。店は50元原価だから70元くらいで売る店もあるかもと自信がなくなり限界価格を提示。

17、客「うーん、どうしようかな。あれ、でもここに傷もあるしなー。」

→80元でいいけど、あともう踏ん張り出来ないか試してみる。

18、店「そんな傷なんでもないって」客「いや結構目立つ」

→ここで最後の根気比べ。

19、店「あーもう分かった。70元。これでいいだろ!」客「OK,ありがとう」

→店が根気負け。一応の利益は出ているから売れ残るよりはマシという判断で渋々決断。

20、店は苦い顔で金を受け取りもちろん何のお礼の言葉もなく投げるように商品を手渡し目もあわせないが、客側は気にすることなく上機嫌で返っていった。

 →店の態度を見て、客も限界まで責めて更に勝利したことを確信し上機嫌。

 

書いただけで疲れました。この戦いには20分くらい掛かっているはずです。この勝者が300元の日本人より優れていた点はどこでしょうか?

  •  商品に対する知識(大体の原価や今売れ筋なのかなど)
  • 情報収集力(他店での販売価格、店側の対応の癖など)
  • 交渉するのに十分な時間(時間が無ければそこで戦いは終了です。)
  • 観察力(相手の状況を読む力、つまり相手の表情から持ち札を探ること。)
  • 演技力(自分の目的やゴールを見破られないようにする演技力)
  • 根気(焦った方が負け。焦らして勝つのもまた作戦です。)

つまり、交渉力です。 

あなたはこれらの時間と労力を掛けてその差額“230元”を勝ち取ろうと思いますか?思わないなら、300元騙されたのではなく妥当な値段だったのです。つまり時間と労力を230元で買った訳です。この勝者も、時間が無かったり知らない土地で買う時は、同じ戦いは出来ないと判断して高めの金額で手を打つはずです。つまりこの交渉力が金額に換算されているということなのです。

 

スーツケース一つ買うのにここまでやる気はしないという人も、これが何百万元の取引ならどうでしょう?たかだか70元のやり取りに、一般的市民である彼らは日々このような交渉を繰返しているのです。700万元ならどういう準備と作戦を使うでしょうか?もしこれが一般庶民でなく組織のトップならどんな技術を持っているのでしょうか?もしこれが2億ドルだったら、どんな技術を持った人間がどんな作戦で向かってくるでしょうか?

私はそんな交渉に立ち会ったことはありませんが、それでも大事な場面で日本人が大失敗をし、本人はそれにも気付かず勝負にならぬまま終わったということを、自分の例も含めて数多く経験し見てきました。

 

定価が無い国はたくさんあります。子供の頃からりんご一つ買うのでも交渉をして来た人と、大人になり海外で初めて経験する人、そこには何十年という時間の差だけでなく日々周りの手ごわい敵と戦ってきた経験値の差もあり、それを埋めることは簡単ではありません。今水面下で何が行われているのか知る由もありませんが、どうか、有効な策がありますように、心から祈ります。