こども嫌いでしたが、こどもに関わる会社始めました。

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ユニクロの下請け工場問題。その3:問題はユニクロを着るのか着ないのかということ。

この問題は今日でまとめにします。

 その1、その2で調査報告書に対する疑問を述べて来ました。簡単にまとめるとこんな感じでしょうか。

  • 報告書は、中国の社会的な問題点と仕事内容自体が持つリスクについて触れず全て企業(ユニクロ及び工場)の問題として捕らえているので、何処までが本来の企業の責任の範囲内かが明確でない。
  • 報告書が理想とする状態は中国の実情とかけ離れており、現実的でないものも多数含まれている。
  • その為、全て勧告通りに改善するには、途方も無い時間とコストと手間がかかり現実的にはかなり難しいだろう。

だからしょうがない、今のままでいいんだとは思っていません。

ただこの問題は、「安い場所で安い人間を使って安く作り、高い場所で高い人へ売る。」というビジネスモデル自体に必ず付き纏う問題であり、その方法を採る企業が山ほどある中で一社について問題解決を迫ったところで何も解決しないと思っています。中国の人件費はここ数年どんどん上昇しているので生産拠点がバングラディシュやミャンマーなどにも移ってきていますが、問題は何処であっても同じことです。

“インフラ整備も不完全”“開発されていない土地と材料”があり、“法律などの社会システムも未完全”“人権意識も低い”からこそ、低コストな生産拠点に適した場所となる訳です。だからそこに、その1と2で述べたような社会的問題が存在しているのは当然です。もし、この報告書が指摘する問題点が全てクリアになっているような場所であれば、そもそも生産拠点選ばれることはないでしょう。

 

更にこの問題は大気汚染や水質汚染などの問題にも繋がっています。世界でも大きく取り上げられているPM2.5問題は、もちろん中国自身の原因も多くありますが世界の工場となっていることも無関係ではないはずです。各国の各メーカーは中国の基準に沿って工場を建て運営しているのだから、その不完全な基準と検査をしている中国に責任があるというは当たり前です。但し、そういう不完全さがある発展途上の国だからこそ、安い土地と材料と人があり世界の工場となり得た訳です。現地の不完全さを利用して、問題は現地の不完全を理由にするというのは都合がよく思えます。

 

労働法やその他法律でも同じことです。その1、2で挙げたように、「法律が概ね理にかなった内容でまともに施行されている」とは限りません。大型工場で大人数が働き、今まで聞いたことも無かったような化学薬品を使用する事についての想定がされておらず、私達から見たらスカスカの法律や条令だからこそ、工場運営の初期投資が安く抑えられ準備も比較的簡単に済んだという面もあるはずです。だから「現地の条例や法律を厳守する」ことが絶対で、それだけ守っていれば正しいというは間違っています。本来ならば、起りうる問題点を理解している経験者という立場の企業側が、現地が思いつかないような面をも含めたルールを作り、守って行かなければならないことだと思います。しかし、そんなことは可能でしょうか?不完全な状況の中、自分達だけでそのレベルより上のことをしようとすれば当然コストが上がる訳で、だったら本国で行う方がよっぽど簡単だったということになるでしょう。

 

どの企業がそんなことをしているのか?こんな犯人探しは意味がありません。 この国境を越えての流通が当たり前になったからこそ、一周回ってもう一度“地産地消”が見直されたりして規定いるのです。今この瞬間だって、数々の企業や商社が次の「生産地にふさわしい不完全な場所」を探しています。そしてそれら企業やメーカーは同時に、私達消費者に取っては良いものを安く簡単に提供してくれるありがたい存在です。ユニクロの商品は千円代の物も多くそれ以下もたくさんあります。

例えば、ヒートテッククルーネックT(長袖)は690円

2014年の日本の三大首都圏でのバイト時給平均は985円だそうです。

(リクルートジョブズ発表)

 

独自に開発し、きちんとデザインされ、厳しい品質で製造され、きれいに包装され輸送されて来たものが何故こんなにも安く手に入るのか?数字に弱い私の頭でも、ちょっと想像すればその裏にある現実に思い当たります。「世界のどこかに、土地も材料も人も物凄い場所があり、そこにメーカーは環境に十分配慮された最新技術の工場をつくり、そこの人々は安全で清潔な環境の下、十分に生活出来る給料と、十分な休暇と、更に工場と対等に交渉できるような権利を手に入れて皆幸せに働いている。」そんな事を本気で信じている人以外は、ユニクロを非難する事が出来ないはずです。このシステムのメリットを享受している以上、私達もこの問題の当事者であるからです。

ユニクロ: 潜入調査で明らかになった中国・下請け工場の過酷な労働環境(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース

この記事で伊藤氏が「海外下請け工場はブラックボックスでよいのか」と述べていました。ブラックボックスにしているのは、企業だけでなく私達消費者側も同じなのではないでしょうか?肉好きを公言しても屠殺場は見たくない様に。

私はユニクロの服を買っているし、ファストフードも食べるし、その他いろいろな安くて便利な大量生産された物を使っています。だから、この報告書に手放しで賛同しユニクロを攻めることが出来ないでいます。

 

国連で2011年に「ビジネスと人権指導原則」が採択され、2013年にバングラディシュの縫製工場ビルの崩壊事件によりこの問題が注目されて来てはいますが、根本的な解決にはなっていません。最低限の配慮として自給を50円上げて残業を1時間減らしたりしてみても、先に恵まれた人がまだ恵まれていない人を利用するという根本が変わることはありません。

これは企業だけの問題ではなく、このサービスを享受している私達が問われている問題なのだと思います。だからこそ、私達が「いいものが少しでも安く便利に手に入る」ことを望む以上は、根本的な改善は望めないと悲観してしまうのです。

 

ユニクロの10倍以上の手間を掛けて作られた服を、10倍以上の値段で買い、10倍以上の年数着続けることが出来るか?

 

全てはこの問いに集約されると思っています。